2010年2月9日火曜日

奈良国立博物館「文化財保存修理所」特別公開



奈良国立博物館敷地内に建つ「文化財保存修理所」。(写真右手前のガラス張りの建物です)
その名の通り、文化財等の保存修理と、それに伴う調査研究を目的とした施設で2002年にオープンしました。
通常非公開で、一般の人は立ち入ることができませんが
昨年より、文化財保存の重要性を一般の人にも実感し知識を深めてほしいという目的で
見学申し込み制による特別公開が実施されるようになりました。

・・・残念ながら去年も今年も抽選に外れた私。
かなりの人気で高い倍率だったと聞き、すっかり縁の無いものと諦めていましたら
「当たったよー。一緒に行きませんか〜?」という有り難いお誘いをしてくれる人がいて。
で、この記事の丸投げもお願いしたいところなのですが(笑)

同じ説明を聞いて同じようにメモっていたので同じような内容になりますが
こちらのブログにも同じことを記してみようと思います。

最初に博物館の講堂で、文化財修理所の概略や、考え方、修理の工程などの説明を聞きます。

文化財修理所には、彫刻・絵画・漆の三つの部門があり、
それぞれ「美術院」「文化財保存」「北村工房」という工房名が付けられています。

講堂では、彫刻と絵画部門の工房の修理作業の流れや考え方を
それぞれの研究者によって説明していただきました。

①仏像修理など彫刻部門の「美術院」での修理の流れは・・・

修理する仏像を運び出してまず最初は燻蒸して殺菌。そして写真に記録してから、色止めをして解体修理。
仏像の接着具材の取り替え、組み付け。
欠損している所を補ったら、そこを彩色して回りの古色と色調を調整する。・・・・などというもの。

保存修理の考え方としては・・
オリジナルの歴史的価値を根底に保存する。
どこをどう修理したのかわからないのがいい修理だそうで
ほとんど修理する前と変わらない状態で戻すという、現状保存の徹底というのが基本の考え方です。

②絵画部門は別名「装潢室(そうこうしつ)」と呼ばれています。ここでの修理の工程は・・

肉眼と、科学的なもの(紫外線・赤外線・X線)による調査(何に描かれているか。何で描かれているか。色の定着材は何か。形状や装丁はどのようなものか。など)と、
損復図の作成記録などの事前調査をした後に解体。
解体作業では、蒸留水などの霧吹きで汚れを取って、剥落止めをして
裏打ちを外す前に表打ちをして補強をする。

裏打ち紙、肌裏紙を外して、いよいよ欠損している所を補強していくわけですが
この時、周りの古くなった絹とのバランスを取るために、意図的に劣化した絹で補うというのが
面白いなぁと聞き入ってしまいました。

こうして補絹(ほけん)した後は、折れ伏せ(折れのある裏側に入れる)中裏打ち、総裏打ちというように
何層にも裏打ちをして(増裏という)、その後、補彩。表装など。

紙の欠損を補う時には、同じ繊維の和紙を漉いて和紙を作ってから補うそうで
装潢室(そうこうしつ)の奥には、和紙を漉く部屋もあるのだそうです。

考え方の基本は、仏像保存と同じくオリジナルの尊重ですが
もう一つ大事なことがあって、「可逆性」と言われていました。
「可逆性」とは、水で濡らすと剥がれるような「古糊」を使って
将来の修理に備えるという考え方です。いずれにしても強固な接着剤など科学的な物は使わず
伝統的な古来の方法で接着して、いつでも解体修理できるようにしておくのが基本だそうです。

このように、大変詳しい説明を聞いた後、いよいよ文化財保存修理所に移動して
建物の地下にある3つの工房をガラス越しに見学させていただきます。

地下にある工房は自然光をうまく取り入れ、明るい印象です。
地下にあることで湿気も安定して、文化財の補修にはとてもいい環境なのだそうです。

靴を脱いで階段を下り、まず最初に仏像修理の「美術院」工房を見せていただきました。
岡倉天心から始まる「美術院」は100年以上の伝統ある、仏像修理のエキスパート達の集団です。

どの工房でも、事前解説で頂いた写真と修理品の資料を見ながら
実際の修理過程を説明していただくのですが

一つの修理に3、4年と時間もかかり、集中力と細やかな神経を使う根気の要る作業を
技術者の方々は真摯に黙々と取り組んでらっしゃって
そういう姿を間近に拝見できましたことは大変いい勉強になりました。

この特別公開にお誘いくださったしをんさん、どうもありがとうございました。
大変判りやすい説明がブログに書かれていますので、合わせてご覧下さいませ。

::


博物館の前の池では、11日から始まる「なら瑠璃絵」のための装飾が竹細工でできていました。
 まどろむ鹿たち。

こちらは記念撮影に応じる鹿たち。