2009年10月2日金曜日

森の小径をぬけて、「志賀直哉の旧居」へ

10月1日++
まだ少し暑さが残っている気配もありますが、月が変わると気分も一新。
久しぶりに森の中を自転車で走りたくなる気持ちのいいお天気でした。



木漏れ日の中、ささやきの小径をぬけて「志賀直哉の旧居」まで。

 

この邸宅が築後80年という節目の昨年 平成20年に
志賀直哉が住んでいた当時の姿に戻すという事業が行われ
今年の5月に、建築当時の姿で復元された「志賀直哉旧居」。

復元前にも何度も訪れていて、奈良市内の観光スポットの中でも好きな所でした。

志賀直哉が自ら設計し、数寄屋造りで有名な京都の大工に建築させたその邸宅は
昭和初期という時代にしては、とてもモダンで合理的な造り。
それでいて建築の様式美は格調高く、数寄屋造りとハイカラな洋式のサロンなどが
うまく取り合わさって、さしずめ今なら「和モダン」とも表現されそうな建築です。
また、子供達や奥さんの居室を日が当たる南側に配するなど
一日家にいる時間が長い家族に対しての配慮に、家族への深い愛情を感じた印象がありました。

復元されて久しぶりに訪ねてみて、まずはびっくりしました。

今まで見ることができたスペースは、今回の復元後に見学できるようになったスペースの
1割くらいだったかもしれない・・・それくらい復元後の見学スペースは
ほとんど邸宅一軒分という広範囲にわたっています。

そして以前に感じた印象
<家族への深い愛情・合理的なつくり・格調高い和モダンな建築美>が
益々パワーアップしていました。

写真撮影OKでしたので、撮影したお気に入りのところを少しご紹介します。

玄関(写真左)で靴を脱いで、自由に家の中を見学できます。
まずは離れ(1階にはお茶室があります。)の2階から(写真中は2階の客室)。
ここからは、私のお気に入りの「御蓋山(みかさやま)」が一望できるのですね。(写真右)
  

下の写真は、お風呂の隣の洗面室と着替えの間。
復元前は壁で閉じられていて、洗面所の写真が残っているのに
それがどこにあるのかわからない状態だったそうです。
着替えの間が畳敷きというのも家族思いの表れからですね。
 

台所も壁や戸板で閉じられていて、ペンキが塗ってあったらしく
復元工事ではペンキを丁寧に剥がしていく作業も大変だったそうです。
左の写真は白ペンキが梁に残っている様子。
残された写真を元に復元された台所のガス台は、白黒写真では材質が判明しないために
「判明したらすぐに付け替えれるように置いているだけです」と、ステンレス台を
持ち上げて説明をして下さった。(写真右)
  

あちこち利便性を追求した工夫がいっぱいです。
左:台所とサロンの間にある戸棚の引き出しはどちら側からも開け閉めできる。
中:この時代に珍しい、壁に備え付けの冷蔵庫。
右:サロンのソファも壁の中に備え付け。
  


サロンの天井の証明器具は志賀直哉が使っていたもの。
今回の工事中に押し入れにしまってあったのが見つかった。


         サンルーム

サンルームの窓際に小さなコーヒーテーブルが置かれている。
残っていた写真によると、クローバー型のかわいい形をしていて
志賀直哉は奥さんとここで向かい合ってティータイムを楽しまれていたそうです。
左:テーブルは新しく復元されたもの。夫婦二人の時間を大切にされていて微笑ましく思う。
中と右:天井からの陽の光りで床の黒い瓦は青い色に見える。
  

左と中:サンルームの窓辺から庭を見ると奥に子供のために作ったプールが見える。
右:子供部屋の床は、足あたりが柔らかく汚れにも強いコルク。

  

さて、こちらは何でしょう? 


以前の日記にも登場していますが、勝手口横の郵便受けの内側であります。
 

志賀直哉が奈良に移り住んだのは
奈良の古い文化財や自然の中で、自らの仕事を深めていきたいという思いからだそうです。
またその13年後に東京に移転する決意をしたのも、奈良の古い文化や自然の中に埋没して
時代遅れになろうとしている自分を発見したからとも・・・(パンフレットに記載)

何だかその両方がわかるような気がしますが
奈良在住13年間のうちの9年間を、ここ高畑の邸宅で家族と過ごし
生涯の実生活や作家活動の中でも、大きな実りと調和を得ることができた期間であったこと。

「兎に角、奈良は美しい所だ。自然が美しく、残っている建築も美しい。
そして二つが互いに溶けあっている点は他に比を見ないと云って差支えない。
今の奈良は昔の都の一部分に過ぎないが、名画の残欠が美しいように美しい。
御蓋山の紅葉は霜の降りようで毎年同じようには行かないが、よく紅葉した年は非常に美しい。
5月の藤。それから夏の雨後春日山の樹々の間から 湧く雲。
これらはいつ迄も、奈良を憶う種となるだろう。」

直哉は随筆「奈良」の最後にこのように書いています。
奈良での13年間の生活は
彼の生涯の中でかけがえのない時間となっていたのではないでしょうか。

『志賀直哉旧居』

住所:奈良市高畑町1237−2
tel:0742-26-6490
開館時間:3〜11月は9:30〜17:30
     12〜2月は9:30〜16:30
入館料:350円
休館日:月曜日と年末年始
※「志賀直哉旧居」の修復工事作業工程についてはこちらに詳しく解説されています。