2009年11月17日火曜日

奉納700年記念臨時公開『春日権現験記の世界』

先日、NHK「日曜美術館」で放映されたのは
ただ今、東京国立博物館にて開催中の「皇室の名宝」展に出品されている
絵巻『春日権現験記』についての特集でした。

テレビ画面に映し出された絵巻の中の絵は
どれもこれも繊細、精緻な描写で、躍動感を感じるところもあれば、そこはかとない淡さもあり
品のいい色合いや流暢な筆さばきにユーモア溢れる表現力と
これを描いた絵師の腕前の凄さを画面からも感じることができ
実際のものを観てみたい!と久しぶりに心動かされました。

できれば東京国立博物館まで出かけたいところなのですが
今はそれもできませんので
今日から、奈良春日大社で開催されています『春日権現験記の世界』展に
早速行ってまいりました。

絵巻『春日権現験記(かすがごんげんげんき)』は
鎌倉時代(1309年頃)の絵巻の名品であり
後世の美術作品にも大きな影響を与えた作品です。


時の左大臣 西園寺公衡(さいおんじきんひら)の発願により
宮廷絵所預の高階隆兼(たかしなたかかね)が描いた
、春日明神の霊験の数々。

今年は、この絵巻物が春日大社に奉納されてちょうど700年目にあたります。
鎌倉時代に描かれた原本は明治時代に皇室に献上され、現在は宮内庁で保存されていますが
春日大社には、江戸時代に模写された優品(「春日本」と呼ばれる)があり
これが、今、春日大社宝物殿にて全20巻が特別公開されているのです。

優れた模写本とはいえ、描いた絵師の魂の入り具合がやはり違うかなと思いました。
テレビ画面からでも、そこから感じた芸術性のような強いオーラ。
春日本(模写本)から発せられたものはちょっと希薄な印象でしたが・・・。

でも、そこに描かれた、平安から鎌倉時代の春日社や興福寺の様子。
春日を氏神と仰ぐ藤原氏の貴族から春日を信仰する庶民までの風俗や当時の風習など
中世という時代の暮らしぶりが生き生きと身近に感じられて
そういった意味では、この展覧会、中々面白かったです。
 

この展覧会に合わせて作られた冊子。
詳しい内容で、この絵巻をこれから勉強していく上で参考になるものでした。

この冊子から拾った気になる図柄を何点か。

まず犬好きの私にとって、絵巻に登場する犬は一番気になるところです。
蚤がついて痒がっている犬がいたり、縁側に乗っている犬もいますね。
屋敷の中では放し飼い、縁側くらいは住居の中へ入ってもよかったのでしょうね。
  

  

神の使いとして崇められた鹿もよく登場します。
  
左:大鹿出現の夢を見た場面 
中:一の鳥居付近、地蔵菩薩の乗る牛車の後を追う鹿
右:興福寺での読経中、毎日鹿がきて聴聞する様子

鹿の表現の仕方もかわいい。 

風俗として面白いもの
左:手を清める水桶の横の松の木の枝に布巾が結ばれているのが面白い
右:床の間のようなスペースや生け花のルーツともいえる、紅葉を挿した花瓶が興味深い
 

こちらは披見台。
「春日権現験記」を広げて見るための台として作られたもので、鎌倉時代の原本と同時期のもの。
この披見台も展示されています。
よく使用されたものらしく、中の骨の形が分かるほど、すれが目立っています。

以上、写真に添えた文章のほとんどは、冊子中から参照させていただきました。

かつては、天皇や将軍など最高権力者の強い要望のある時に限られていた「春日権現験記」の拝観も
こうして普通に鑑賞することができるのですから有り難いものですね。
会期がそれほど長くはないので興味のある方は是非どうぞ。

奉納700年記念臨時公開『春日権現験記の世界』

場所:春日大社宝物殿にて
会期:11月17日(火)〜11月29日(日)
時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
拝観料:大人400円